2022年版:革の値上がりはなぜ起きるのか? その対処についての話


こんばんは。いつも当店をご利用いただきありがとうございます。

 

革素材の値上がりが止まりません。
今年前半からコロナの影響やウクライナとロシアをめぐる情勢に端を発して革の市場価格が上がり出し、今年を通してほぼ全ての革(原皮も)の値上がりが起こっています。

12月1日より数種類の革素材の値上がりを控えておりますが、その件は後述するとして、なぜ革の値段がこうも上がっているのか、今日は書こうと思います。

今年の値上がりは複合要因

私がPhoenixで働き始めて9年になりますが、今までも革の値上がりというのはありました。しかし今年のようなハイペースで、全体的に、大きな値上がり幅で上がるのは初めてです。異例の事態です。

革が値上がる、というのは当然その背景に要因があるのですが、今回はそこの部分を書きます。それを知ることで、今後の備えにもなりますし、販売されている方の商品の値上げのタイミングの見極めにもつながるかとは思いますので、どうぞお付き合いください。

ドル高、円安

今1番大きな影響となっているのは円安です。要は円の価値が下がっています。今まで100円で買えたものが120円出さないと買えなくなる、ということ。

特に海外の事業者と商売をする際はドルを経由する(ドル建て)で行うことが多いため、円安は多方面に影響が出ます。事実上の値上げですね。

いやいや、円安の影響って海外旅行の時くらいじゃね?とかつては思われていたようですが、これだけサプライチェーン(材料供給網)が国際的になった今、日常生活にも影響が出て当然といえば当然です。

 

エネルギー価格の高騰

エネルギー、要は電気、ガス、ガソリン、石炭などですね。これらの値段が上がってます。家計簿つけている方は1年前の光熱費、ガソリン代と比べてみてください。びっくりすると思います。

革を作る工場でも同じで、光熱費が上がっています。その分、革の値段に転嫁されています。

また、運送業のガソリン代も上がっています。Pheonixまでの運賃もそうですし、原皮や薬品が工場に届くまでの送料、工場から下請け加工業者までの運送コストも上がっています。

 

コロナなどによる物流コストの上昇

上でもガソリン価格が上がっている、と書きましたが物流というもうちょっと大きな視点で見た時に、あまり日常的に感じることは少ないですが、海外からの輸入コストも上がっています。

コロナで中国の上海がロックダウンしたり、ベトナムの半導体が入って来なくなった、というニュースはみなさんご存知かもしれません。

とどのつまり、物流網が一回ぶっ壊れたんですよね。

また、ロシアとウクライナがドンパチしている影響で、ロシアの上空を飛行機が飛べなくなったり。

じゃあ違うルートで飛べよ、違う航路で送れよ、となるんですが、世の中そんなに簡単じゃあない。未だに物流に混乱が起きており、納期が遅れたり、コンテナ単価が上がったりしています。

この3つが大きな要因として挙げられています。(横井が同業者に聞いたまとめ)

じゃあ、具体的にこれらで革の値段がなぜ上がる?というところを次は書いていきます。

原皮の事情

革に詳しい方は知っているかも知れませんが、革の材料となる原皮は輸入ものと国産(ジナマと呼ぶ)があります。

輸入と国産とでは若干背景が違いますので分けて説明しますね。

輸入原皮

海外の原皮商から買うことになりますので先にあげたドル高円安の影響がモロに出ます。また、当然輸入となるため物流コストも影響が大きい。

さらには、競争相手にアメリカ・中国という巨大市場がいる中で材料も競争が働きますので、市場規模の弱い日本の原皮価格は押し上げられてしまう格好となります。

牛原皮、2年9ヵ月ぶり高値(日本経済新聞2021年9月記事)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO75501660W1A900C2QM8000/

さらには、海上輸送に通常よりも時間がかかってしまうため、傷む原皮も多いと聞きます。100枚仕入れて使える原皮が何枚あるのか、というのは当然革の単価にも影響が出ることは想像に易いと思います。

国産原皮

じゃあ国産の原皮を使えばいいじゃないか!という声が聞こえてきそうですが、国産の原皮で全て賄えるほど革は単純ではありません。輸入原皮でないと作れない革というのも存在しますので、そうはいかない。

国内の原皮価格というのは横ばい、もしくは下落傾向にあります

そもそも日本国内で流通しているモノですから、円安の影響はあまり受けません。
強いて言うなれば物流コストが上昇していますので、その影響はあるかと思いますが、今のところ目立って値段が上がるということはなさそうです。

しかしながら、全てその通り、と言うわけでもありません。

革の材料として需要のある質の良い原皮に関しては、すでに取り合いの状態です。
各社今後の動向に注視しているところではありますので、2023年はどうなることやら。。。

革の製造コスト

革の原料である「原皮」は前述の通りですが、では「革」の方はどうでしょう?

「原皮」を「革」にするのタンナーと呼ばれる製革事業者です。

ここでは仕入れた「原皮」をさまざまな薬品や物理処理を行い「革」にしていく(鞣す)のですが、その際には大量の水、複数の大型機械、薬品を使います。

大量の水を使う製革所ですが、併せて大量の排水が出ます。

この水をそのまま川に流すわけにはいきませんので、タンナーは自前の排水処理施設を持っていたり、もしくは地域で共同運営しています。水を捨てるにもコストがかかるわけです。

大型機械、場所によっては6Mほどの直径の大型ドラムをグルグル回します。
他にもさまざまな専用機械を使います。

これだけでも電気代がえらいことになりそうですね。

でも最も目に見えてコストを押し上げているのが、革を作る際に使う「薬品」のコストです。

こちらに関しては輸入モノ・国産モノそれぞれありますが、押し並べて15%〜20%の値上がりとのことで、この値上がり幅も併せて革の値段に転嫁されています。

 

輸入革の場合

輸入革はもっと過酷です。

上記の製造事情は国内も海外も同じですが、輸入革の場合は物流コストがさらに上乗せされます。かつては関税に関して値段が高い事由として叫ばれていましたが、今は物流コストが値上げの大きな理由となっています。

コロナの影響で物流がぶっ壊れました。港湾に人が足りない。荷上げされない。通関通らない。

聞くところによると、今ではコンテナの使用量は10倍近くに跳ね上がり、エア便もスペースの取り合い(コロナで飛んでる航空機の数が激減した影響)、原油価格押し上げによるサーチャージの高騰。

さらには円安です。

これらが輸入革の場合はプラスされています。書いてて恐ろしくなってきたな。輸入革の価格の高騰や品薄などは今後もしばらく続くと思います。

 

革の値段は今後も上がると思います

自分で書いてて、今の仕事してて大丈夫か、私?と思うんですが、それくらい今回の値上げ騒動は業界にとって痛手であり、先が見えない恐ろしい状況です。

まあ、考えてても仕方ないのでできることをやるしかないんですけどね。

なるべく低コストで入荷したものの在庫を抱えておく。まとめて仕入れてコストを抑える。いっぱい買ってもらって回転を良くする。

ここらが私たちが対策です。円安やコロナなんて正直我々だけではどうしようもない。

まだまだ先行きの見えない日本経済ですが、革の値段の行く末もまだまだ見えてきません。
このまま円高が進んだり、物流が落ち着かない限りは今後も革の値段というのは上がらざるを得ないと思います。

 

作り手さんができる対処法

こんだけお先真っ暗なこと書いているとレザークラフトやる人がどんどん減りそうで怖いんですが、変に内情を隠すよりかはオープンにして「みんなで少しでもいい方法考えようよ」とやる方が私の好みなので、書きました。以下は革屋からの提案です

・革はある時に買っておいてください

コロナ以前と大きく変わったのは、「納期が読めなくなった」です。
タンナーでの人員不足や海外の場合は輸送にかかる時間が以前よりも増えてしまった影響で納期が不安定になっています。

平時であれば、発注から納期を逆算したり、タンナーからの出荷連絡から納期を導き出せましたが、現在は外的要因による納期遅れが頻繁に起こっており、我々では納期を読めないことが多くなってきました。

物流の混乱から、(空)港に荷物は着いていても、積んでもらえなかったり、コロナによる人手不足などでコンテナに載せられたまま港で足止めを食らったりしているのが現状です。

流石にそこまで読んで在庫管理するのは至難の業になりつつありますので、革屋さんが革を切らすことが大いにありますので、革はある時に買っておいてください。

・早めの発注をお願いします

上記の理由から、革が常にストックされているとは限りません。

今までであれば「必要なタイミングから逆算してこの日に革が買えればOK」でしたが、革屋さんが在庫を切らしていることが増えると思います。

「えー、今日買わないと間に合わないよ」

と言う不幸を避けるためにも、革屋さんへの在庫の確認や余裕を持った発注をお願いします。

・値上げに備えておく

今年は年間を通して革の値上がりが常に起こっている1年でした。

ここまで幅広く、金額の上がり幅が大きいのは私も初めてです。

Phoenixをはじめとし、多くの革屋さんが値上げの際は事前にお知らせをしていると思いますが、お客さんの方でSNSやブログ、店頭でのお知らせなど、店の告知の全てに目を光らせるのは大変かと思います。

今、私が把握している情報でも2023年の上半期もおそらく値上げは進むと思います。

お客さんの方で情報の収集や革屋さんとのコミュニケーションをお願いします。

 

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2 thoughts on “2022年版:革の値上がりはなぜ起きるのか? その対処についての話

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