割り漉き屋という仕事と、最小存続可能個体数と、割り漉き屋とグローブ会社見学会の話


毎度です、ムラキです!
こうやって最初に名前出す際は「トラブルおきたら文章書いている人間が悪いんだよ!」という表明でもありますね( ´ー`)y-~~

先日ネットニュースでもとりあげられていましたが、東京の割り漉き屋さんが火事にあわれましたが、その後再建に進んでいるようです。

日本で6社しかない革漉きの仕事を未来に繋ぐ 株式会社伊藤登商店 伊藤 勢一郎さん|ものづくり新聞

この記事の中で「日本で6軒しかない」と書かれている漉き屋さんですが、まぁ、嘘でもないがほんとでもないかな、というのが感想となります。あぁ、インタビュー答えている人は嘘言っている!というわけじゃないですよ。

今回のblogでは漉き屋、という仕事の話と、専門職種の最小存続可能個体数と、割り漉き屋の見学会の紹介となります。

 

割り漉き屋、という仕事

漉き屋、という言葉は2種の仕事を指し示す

漉き屋、という仕事を見てみよう: レザークラフト・フェニックス
割り漉き屋さんの仕事を動画で紹介しよう: レザークラフト・フェニックス

以前(げ、2013年って書いてある(´Д`)ハァ…)にも紹介しましたが、漉き屋、という言葉は2つくらい意味があります。

・ニッピ機械なりの漉き機を使って革の端っこや20cm程度までを薄くする「漉き屋」さん

・専用の割り機を使って、革全体を薄くする「割り漉き屋」さん

面倒なのが、この2形態を区別なく「漉き屋」ということも多いです。
フェニックスでも「ちょっと漉き屋煮出しますね」という場合は2番の全体を薄くする割り漉き屋さんのことを示しています。

まず一つ目の「嘘でもないがホントとも言い切れない」というのはこの「漉き屋」という言葉には2業態を意味する、という点。インタビューに答えている人が悪い、とか、インタビュアーが悪い、というわけでもないんです。

「漉き屋は日本で6軒」ということ。

これはほぼ真実です。東京名古屋大阪姫路あたりで合計してこの数かな、と。

この巨大な機械を持っている業者は?と聞かれたら正確にはわからないけど、多分10軒くらいはある、と私は答えます。ですが、「その中でお金もらったらやりますよ、という業者はいくつ?」と聞かれたら6軒程度かな、と答えます。

いくつかの会社は「自社革のみ」、や、「取引先のみ漉きます」、と限定して機械を動かしています。

「せっかく機械あるんだから、どうせなら外注で仕事してよ!」と思いますが、実際はそこまでやるほど手と技術が足りていません。
あぁ、「技術が悪い」と言っているんじゃないんです。あくまで「自分たちが扱っている革に関しては98%失敗なく出来る」「でも触っていない他社の革までをきちんとやったことがないから怖くてやらないorやらないほうがいい」というだけの話です。

6社の会社は触ったことがなくても積み重ねた経験値で作業をします。ある種毎回一か八かみたいな作業ですね(゚A゚;)ゴクリ

漉きという作業は技術の蓄積

よく勘違いされますが、ミシンにせよ、漉き機にせよ、割り漉きの巨大な機械にせよ、お金を出せば買えます。ですが、それをきちんと使いこなすようになるまでには時間と労力と勉強が必要となります。

お金なんてのは借金したり頑張って貯めれば手に入ります。ですが、経験は時間つぎ込んだり頭使わないと身につきません。

実際「自社で割り漉きしてやる!金ならあるんや!」と巨大な割り漉き機をかった会社が使いこなせていない、という話は耳に入ってきたこともあります。そりゃそうだろうなぁ。。あの機械は経験値が必須です。

革の鞣し、革の流れ、厚み、温度湿度、革の質、など様々な要因があってこその漉き作業なわけです。革は不確定要素が多すぎます。

ケチろうとすると効率がものすごく悪くなる

当社でもバンドマシンはありますし、私個人も漉き機を使っています。この機械は頻繁に研ぎをして初めて真価を発揮できる機械です。ってことは頻繁に研ぎをする、というのはそれだけ刃を消費するわけです。当社でも4、5ヶ月に一度は刃物を交換します。交換時に油断すると指くらい簡単にスパッといきます。つぅか、スパッといきました。イタタ、、、

交換に手間暇かかりますが、コストもかかります。

フェニックス取締役、どうします?ケチればもうちょっと長持ちさせられるけど?

「どうケチれます?」

例えば、クロム鞣しの革なのか、タンニン鞣しなのか。厚みはどれくらいあって、それをどれだけ薄くしたいのか、などを考慮して、研ぎや刃先の位置をいちいち微調整したら刃先の消耗をケチることは可能だと思う。ただ、そのためには勉強も必要。

でも、常時研ぎっぱなしで切れ味最高にするぜ!研ぐことで刃の消耗速度早くなるけどかまわないぜ!と割り切れるならそこまで勉強しなくても大丈夫ちゃうかなぁ。

「ケチってお客さんの革を漉きミスするほうが怖いです。あと、それだけ勉強する時間と気力がスタッフに持たせられないです( ´Д`)=3

ムラキさん、僕らが頼んでいる割り漉き屋さんだって常時研ぎっぱなしで使って、2週間に一度は刃を交換します。それなら僕らもケチったらだめです!」

ごもっともだわね。

同業他社が潰れたらウハウハなの?

以前割り漉き屋さんに「近所にいるライバル会社が潰れたら独占になってウハウハだ!、とか思う?」と聞きました。

回答としては「うち1社になったら、2社なりでまわしている仕事が全部集中する。そうなると破綻する」とのことでした。

この「同業他社がいなくなって仕事集中したら死ぬる」という意見はこの10年。。そしてこのコロナで更に耳にするようになった意見です。革業界に限らないですが、革業界以外でも専門加工職の職人さんなりから耳にしますね。

コロナを契機に廃業しちゃった、という話を聞く

コロナになり、いろいろな加工業なりが廃業されました。倒産ではないんです。廃業です。廃業は「会社を潰して、取引先に頭さげて、色々と整理整頓する時間と金がある」というある意味幸せな終わり方です。

倒産になると、挨拶や整理整頓もできません。いきなり失踪なりもありえます。( ´Д`)=3

廃業される方は「売上が下がっているから辞める!」ということもありますが、それ以上に「もう高齢だからやめよう」「整理整頓できる体力気力蓄えがある間にやめよう」「いきなり倒れて倒産するほうが迷惑だからきちんと挨拶しよう」と考えます。

コロナになり、「お!ちょうどいいから廃業しちゃおう!」とやめた方が増えましたねぇ( ´Д`)=3

フェニックスがお願いしている割り漉き屋は元気だし、跡継ぎもきちんといる

現在も元気に営業されていますし、若い方も働いており技術伝承もされています。

10年後なくなる仕事、という6年前の記事の陳腐さ

上記の写真はネットで書かれていた「予測:10年後食えない仕事」というネット記事の宣伝で使われていた写真です。確か2016年頃なので、6年前くらいのネット記事ですね。ここで書かれているFBやAirbnbなどは現在を考えると諸行無常だなぁ(´・ω・`)と微妙な顔になりますね。(あぁ、上記記事で進められているなんとかライティングが安泰かどうかまでは言及しませんヨ!)

よくまぁ、漉き屋なんてマイナーな仕事の写真を拾ってきたなぁ、と感心したものです。

で、上記の記事を読んだ上での感想ですが、加工仕事はそうそうなくなりません。特に割り漉き屋は現状外注仕事を請け負うのが6社くらいである以上は多分これが最小存続可能個体数かな、と思います。

革業界、という個体群を維持するための割り漉き屋の最小存続可能個体数がもう6社かなぁ

最小存続可能個体数 – Wikipedia

最小存続可能個体数(さいしょうそんぞくかのうこたいすう、英語: Minimum Viable Population、MVP)は、群集生態学保全生態学で用いられる用語で、個体群が長期間存続するために必要な最低限の個体数である。より正確に言うと、天災環境変動などによって個体数が変動しても、個体群が絶滅することなく長期間存続できる最小の個体数を、最小存続可能個体数という。主に動物について用いる用語である。

また、類似した用語に有効個体数Effective population size)がある。

どんな仕事もそうですが、業界のトップの5%くらいは未来でも生き残れます。縮小している業界でも、最後の1社まで生き残れば十分生き残れるわけです。まぁ、1社まで減ると多分ビジネスが回らなくなるでしょうから、数社まで生き残れば大概は生き残れます。

漉き屋にせよ、割り漉き屋にせよ、同業他社が死んでいき技術供給出来る会社が減っていくと、残った会社に持ち込まれる仕事依頼数が多くなります。

まぁ、需要と供給のバランスですよね。供給よりも需要が多くなれば、供給側がパンクし、結果的に体なり心なり機械が壊れて死にます。残った供給先に仕事が集中しますが、そこも「2社なり6社なりが請け負っていた仕事」を1社で行おうと思えば、同じようにパンクします。

ある程度の最低限生き残れる供給数、というのがあり、現状革の割り漉きに関してはすでにカツカツかな、と思います。1社辞める・廃業する・倒産する、などの事態が生じると、需要と供給のバランスが悪くなりつつありますね。東京の割り漉き屋さんが1社休業状態ってのは残った会社は大変だろうなぁ、と。

「それなら人を増やせばいいじゃん!」 技術習得は時間かかるんですよね。また、機械も増やさなければ人を増やしても意味がないんです。

「金積めばいいじゃん!」 漉き屋さんって革1枚400円なり600円でやってくれますが、最後の1社になったら1枚1000円でも文句言えなくなります。まぁ、10年後には「1000円でも漉いてくれてありがとう!」と言っている時代が来てもおかしくないといやおかしくないです。

ちなみにこの割り漉き屋、という仕事がなくなると、革が作れなくなり、革を作る工場=タンナーも困ることになります。

割り漉き屋見学ツアーをやります

10月21日金曜にこの割り漉き屋見学ツアーを行います。

大国町駅近くの革屋で集合し、そこから徒歩でテクテクと見に行きます。

割り漉き屋と、野球グローブ生産工場の2社を見学します。

10/21.22(金土) 本日は革日和♪in大阪 4社の革屋で開催&染色体験&テストシューズセミナー&野球グローブ会社徒歩ツアー開催 | 本日は革日和♪

毎年秋くらいにこのツアーは行いますので、次回は来年となります。

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