A4の0.5mm薄漉きはプロでも難しいから切り売りの革のほうがオススメ、という話


革1枚を薄くする業者さんを「漉き屋」と読んでいますが、厳密に言うならば割漉き屋と呼んで区別しています。この方たちがいないと革産業は成り立たないのですが、現状5~8社ほどしか日本では残っていません。
(東京、大阪、姫路。最近名古屋に1件あると学習しましたさ。表に出ずにやっているところが数社かな)

で、そんなプロでも「フェニックスさんが持ってくるA4漉きは正直やりたくない」と言われますが、無理やり無理くり無茶言ってお願いしています。

今回のblogではA4の漉きは何が難しいのか?彼らが本気を出すとどれだけすごいか。漉きは機械にそのまま通せば自動でできる、というものじゃない、という話をつらつらと。

 

割漉き屋?漉き屋?

割り漉き屋さんの仕事を動画で紹介しよう: レザークラフト・フェニックス

げぇ、このblog書いたの2013年か、、(ヽ´ω`)

バンドマシンという機械を使って革1枚を全体的に薄くするのは漉き割り、という工程です。これをやるのが割漉き屋さん。あ、タウンページなどにはこの名前では載っていませんので。
関東では漉割り、関西では割漉き、と呼んでいます。

「人に話したくなる革の話」 革を薄くする仕事「漉き割り」の世界 | 欧米ブランドに「負けていないぞ !」 | JLIA 日本皮革産業連合会

それに対して漉き機を使って革の端っこだけを薄くするのは「漉き屋」と呼んでいます

「人に話したくなる革の話」革業界周辺の職業紹介シリーズ 「漉き屋」 | 欧米ブランドに「負けていないぞ !」 | JLIA 日本皮革産業連合会

今回の話は「割漉き屋」さんの話しです。

A4サイズ革or切り売り。どっちがお得?

※この項目では「腹部分は繊維が緩い」「A4だと腹部分はいらないよ」「切り売りだと腹部分入るよ」という解説をしています

※下記blogでも解説しています。
フェニックスは革を切り売りでも売っているし、A4サイズでも売っているけどどっちが得なの? | phoenix blog

結論を先にいうならば、「大きさだけならば切り売りのほうがお得!」です。

「えっ!A4は割高なの?フェニックスぼったくりちゃうん?( ゚д゚)ハッ!」

いえいえ、きちんと理由があります。A4サイズは裁断する際にロスが発生していますのでその分料金を高めにしています。

「じゃぁ、ロスってどこのことよ?」

革はロスがでかい

人間もそうですが、背中のほうが皮膚の繊維がしっかりと結びついています。だからこそ、人間は地震のときに背中を上に向けて縮こまるわけです。

お腹の部分は繊維がゆるく結びついています。お腹以外にも脇の下、手足周り、首部分などの可動域部分も皮膚は柔らかくなっています。

なぜそれらの部分は繊維が緩いのか?
<可動域部分はぐるんぐるんと動くので繊維が伸びやすくなっています。お腹部分は「たくさん食べた!お腹いっぱいだ!」とお腹がポンポコリン状態になるために、これまた繊維が伸びやすくなっています。

背中の部分が繊維がしっかりしており使いやすい。お腹部分はゆるいので使いづらくなっています。

お腹はどう使いにくい?

お腹の繊維がゆるいのは「胃袋が満腹になった際に腹部をふくらませる」ためです。
結果的に繊維がゆるいため、強度を要求される部分には使いづらいです。
このお腹の革は、漉きや箔押しを行ってもぼやけます。なんというか、スッキリきれいに出来ません。 「ゆるい・柔らかい」というのは作業がしづらくなるわけです。

「じゃぁ、お腹部分は捨てるの?」

御冗談を。(*´ω`*)
せっかく動物から頂いているものなので有効活用しなくちゃいけません。あまり強度が要求されない部分の裏張り、キーホルダー、などに使われます。

フェニックスではA4サイズ裁断したあとのカスはキッズレザープログラムに寄贈しています。

キッズレザープログラムに送る革を準備していた。こんなハギレ革でも助かっている、という話し | phoenix blog

フェニックスのA4革はこの腹部分が入らないように裁断しています。

A4革の場合はこの腹部分が入らないように裁断しています。その分大きさの割にちょいと高くなります。

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・お試し用【A4サイズ】革 – レザークラフトフェニックス ONLINE SHOP

切り売りだと腹部分や首部分が入ります。

それに対して、切り売りだとこの腹部分が入ります。切り売り工賃20%UPされますが、A4革よりはお得です。でも腹や首部分入る。

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悩ましいよね ┐(´д`)┌ ここまでが今日のお話の大前提。

さて、お話かわって漉き屋さんの話。

割漉き屋さんは本気を出すと0.3mmまで薄くできる

多分0.2mm程度まではイケルと思うんですがねぇ。過去に「この革、芯材として使いたいんだが吟面部分だけ極限まで薄く削ぎ落として」=穴開いて良いから吟面を極限まで薄く漉いて、という依頼をした所、吟面0.2mm漉き出来たんですよね。まぁ、革の表面仕上げや「失敗してもいいや」という気楽さなど様々な要因の結果でしょうな。

ちなみに1000円札で0.1mm。

でもそんな彼らもA4を薄くするのはすごくいや、と言います。

「A4だと流れがわからないからいやなんだよ」

流れ、ってなに?

バンドマシンの先端は常にキンキンキンキンに研がれている

上記動画を見るとわかりますが、彼らは常に研ぎながら仕事をしています。「ジャリジャリジャリジャリ」という音が研いでいる音。

これは刃先を常時0.1mm以下まで薄く薄くして繊維の隙間に刃を潜り込ませるためです。タンニン革や背中部分を薄く漉くとそれだけで刃先は鈍り精度がでなくなります。彼らは常時研ぎっぱなし。刃先を触らせてもらったこともありますが「ゾワッ」とする冷たさを感じます。

さて、こっからがこの仕事の面白い所! 革には流れがあり、それを判断して彼らは漉いている

革には流れがあります。背中から頭やお尻部分に繊維が流れており、お腹や足の方向にも流れています。首の下、腹部分などは繊維がゆるくなっています。

革の裏面=床面部分にもこの流れはあります。

ってことは、革の頭からお尻に向かった流れに沿って機械に革を入れるの?

割漉き屋さん「ちゃうで。お尻から頭に向けて刃を入れるんや」

逆向きに!?なんで?

割漉き屋さん「お尻の方向から入れると刃先が引っかかりやすくなるやろ?頭からの流れに沿うと刃先が滑って繊維の隙間に入ってくれないんや。」

!お尻から入れたほうが刃先が引っかかるってのはこういうことか!!!!人間も手術する時メスを上から入れるものなぁ! なるほど、美しいなぁ、考え方が。

繊維の流れの判断は外見と指先の感覚

割漉き屋さん「例えば1枚革や切り売り状態の革なんかは『あぁ、こちらが背中、こちらが腹か。そうなると流れは、、』と類推可能や。それに対してフェニックスさんが持ってくるA4革はな、わからんねん。」

なんで?

割漉き屋さん「1枚の大きさが小さいから向きがわからないんや。どちらが頭かお尻か。背中か腹か、などがわからん。そうなると『こっちが背中かなぁ、、じゃぁ、こちらだったら刃が引っかかるかな?』と博打でやらなきゃいけないねん。だから、やりたくないんや」

なるほどなぁ

割漉き屋さん「A4でも1mmなどの場合はまだ失敗率は少ない。刃先が引っかかる”厚み”があるからな。でも0.5mmは繊維の流れがわからんと引っかかりづらい。だから、A4革0.5mmは失敗率高くなるな。」

フェニックスではA4革の0.5mm漉きは「失敗する可能性があります」と説明しているのはこれが理由です。

切り売り革のほうが0.5mm漉きは失敗しづらい

この記事のまとめ

・A4だと繊維の流れや向きがわかりづらいので0.5mm漉きなどは失敗しやすい
・切り売りや1枚革のほうが繊維の流れがわかるので、薄く漉く際成功しやすい
・0.4mmや0.3mmの「一か八か漉き」も同じ
・1枚革や切り売りでも腹部分は繊維がゆるいので0.5mm漉きは失敗しやすい

となります。

向きなどがしっかりわかるとこのように0.3mm漉きは可能です。以前手持ちのキップ(中牛。6ヶ月から2年未満の牛さん。大人に比べて繊維がしっかりしている)の頭を「一か八か漉きで0.3mmにしてください。失敗しても文句いいません」とお願いしましたがきれいに漉けました。

あれはキップ、という繊維がしっかりしている革だった&切り売りとはいえ繊維の流れがわかりやすかったので漉き屋さんもわかりやすかったからなんでしょうな

で、これが失敗事例

A4漉き、0.5mm依頼でした。

これ、端っこと端っこで厚み変わっているんですわ。

上部分は0.5mm程度

反対側はなんと0.1mmちょい。

これは薄い(;・∀・) めちゃ薄いです。

 

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