ホックが錆びた!というケースから「こんなことで金具は錆びる」という話


「フェニックスで購入したホックが革に装着後1ヶ月たって錆びてしまった。
これはメッキ不良ではないのか?」

という質問が。
どの程度のサビなのかなぁ、と思って見せてもらうと下記の写真。
うっ、これはすごいな。。

 

今回はなぜ錆びたのか、どこに問題があったのか、などの調査を書いておきます。
誰しもが起こりうることですので読んでおいて損はないです( ̄ー ̄)bグッ!

これなどは左下、右上がホックで、錆びたものが反対側の左上、右下に錆が移っています。
こりゃまた豪快な錆びだなぁ

金具屋さんのメッキ話

まずは金具屋に

カクカクシカジカ、、、という話があったんじゃが、、

「ほぅ、ムラキくん、そういう事例は金具屋にたまに寄せられるが、じっくり教えてあげるからそこに正座しなさい」(#^ω^)

お、おこってます?((((;゚Д゚))))

「全然怒ってないよぅ?(#^ω^)

まずフェニックスさんが購入している金具だけど、うちから流しているものは全部国内生産、かつ、国内でメッキをかけているよね?」

そうですね。フェニックスは国産金具を扱いたい、あるいはグレードの高い海外金具にこだわってますから。
安い海外金具はホックカシメ含めて扱っていないですね

「そうだね。
国内生産の金具や車の部品って海外に輸出することもあるんだよね。
で、欧州なんかのメッキの基準値は国内よりも全然高い。

これらはすごくすごく基準が高く、メッキが弱いと錆びて会社を左右することもありかねない。

もちろん、メッキの過程で薬品が残らないように洗いにすごく気を使っている。

メッキ不良はそうそう起きないと思ってもらいたい」

でもめったに、であって、絶対、じゃないやん?

「それはもちろんだ。
でもメッキ不良があるならばホックならば一箱全部が錆びて当然。
お客さんが購入されたのは10個とか20個だろ?ホックならば1箱1440個。残り1400個は錆びているか?」

錆びていないねぇ

「そうなるとメッキの問題じゃないと思われる。
購入者さんの使用環境の問題も考えられる。
そこをまず聞いてみなさい。」

なるほど。
ところでなんでさっき怒っていたん?

「(#^ω^)怒ってないよぅ?全然

サビが起きたらすぐに金具のせいにされるケースが多くてそれで怒鳴り込まれることがあるから怒っているわけじゃないよぅ?

まぁ、フェニックスさんのために『なんでホックが錆びたか』想定されるケースを紹介してみよう。

1つ目、メッキ不良

1つ目はメッキ不良。
国内ならともかく、海外の金具の場合メッキが甘かったり、洗いが不十分な場合も多い。
そういう金具は錆びる報告もあるね。
うちの会社は国産ばかりだからそういうケースは少ない。」

フェニックスも国産金具にこだわっているからなぁ
真鍮なんかは?

「フェニックスさんに卸している真鍮ホックやカシメはメッキじゃなくて真鍮無垢。
これらは軽くクリア塗装しているので錆びづらくなっている。
でもいつかは錆びるよ。それでもおぼろげに、だけどね。
それが嫌な人は真鍮無垢なホックや金具を使うべきじゃない。


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2つ目、革の残留薬品

「さて、2つ目のケースだけど多いのは革の残留薬品。
某アジア産国の革の場合は日本国内よりも全然安全基準が甘い。
だからこそ革を作る過程での薬品がしっかり水洗いされておらず薬品が残っている可能性もある。」

皮から革にするのに1枚あたり水を1トン2トン使う、という話も聞いたことありますからねぇ。

「そうだね。
その水をケチる海外タンナーもあるからな。」

じゃぁ国産の革ならば全部大丈夫なの?

3つ目、出来たてほやほやの革は薬品が揮発している

「残念だけどそうとも限らないよ。

3つ目のケース。
クロム革の場合は出来立てほやほやの革=出来て1週間で作り手さんなりメーカーに届いた場合は、残留薬品、、というか、革からあがってくる揮発成分がまだ残っている場合がある。」

あ、出来立てほやほやの革って確かにそんな感じがある!
クロムなめしの顔料仕上げ、出来立てほやほやは、静電気でペタっとしており、何か薬品の揮発成分を感じるわ。
あれがそうなんかな?

「それがそうなのかはわからない。
ただ、出来立てほやほやのクロム革で製品作ってホック留めるとしばらく経ってから錆びた、という話はある。」

国産でもそういうことあるのか

「もちろん基準値はきちんと満たしているから別に問題でもないんだよ。
出来立てほやほやのクロム革で製品作って即座にビニール袋に密封とかすると良くないね」

むぅ、そんなこと聞くと革が悪いんか、という話やなぁ

4つ目、接着剤

「ところがそうとも限らないのが4つ目のケース。
革に問題なくても接着剤に問題があったこともある。
靴用の接着剤は強力やろ?
だから乾燥過程で揮発成分があがってくる。
それで錆びたこともある」

接着剤でも!?
でもそんなこと聞くとメッキって過大評価すると怖いなぁ

「所詮金具の表にしかメッキはかけられないんやで。
ホックなんかは小さいながらも複雑な構造、かつ、中が中空やろ?
外のメッキは大丈夫でも内部の見えない部分にはメッキかかっていない。
そこから錆びて表にサビがまわることもあるんやで」

!!なんというトラップ。。。
じゃぁ、革と接着剤に気をつけたら他はもう大丈夫かな

5つ目、合皮と接着剤の複合技

「さて、5つ目のケース。
これなんかは接着剤に問題なくて、合皮を使っていたんだけど、特定の合皮と特定の接着剤、両方の揮発成分が混じってメッキを乗り越えて錆びた、というケースも。かなりレアケースだけどね」

!!なんやそれ!すごいなぁ。
そこで錆びるケースもあるのか

「そう。
様々なケースが考えられるんだよ。
もっと極端なケースならば金具、革、接着剤に問題なかったけど、陳列される際に隣にあった革製品からの揮発成分で錆びた、というケースも。

錆びた!と言われて苦情受けるケースはたまにある。
そういう場合当社としても過去の事例紹介する。
でも最終的には 専門機関に依頼して検査するしかないんだよね。
問題点が金具になかった、という場合検査費用などは全部お客さんに請求する。」

地方独立行政法人大阪産業技術研究所和泉センター

まぁ正論だねぇ
ここでの検査はお金さえ積めば誰でも出来るので相談するのも手ですね。

さて今回のケース

見せてもらうと

・タンニン鞣し
・厚み1,2mm程度

クロム革じゃないなぁ。。革はどこで買いました、というと***さんとのこと。
あそこか。。あそこならば某アジア産の安い革というわけでもないだろうに。

染料で染めているけど使っているのは?

「クラフト社のクラフト染料とセイワのレザーフィックスで表面保護しています」

クラフト染料で錆びるというのは聞かないなぁ。

クラフト社に聞いてみよう。

どうよ?

「錆びた!?
んー、あまり聞きませんし、別にクラフト染料と他社のレザーフィックス混合で悪い成分が揮発された、という話も聞いたことないです。」

だろうねぇ。染料と表面保護で悪い成分が揮発は考えられないなぁ

「あっ、一度そのお客さんに聞いてもらいたいんですが、染料と打刻しているならば順番の問題も考えられます。

染料と打刻では革に水分を与えます。
その水分が抜けて乾燥してから作業しているかどうかですね。
もし水分が残っている状態でホックをつけて放置していたら錆びると思いますよ。
これはクラフト染料の成分の問題ではないですねぇ。」

あ、なるほど
お客さんに聞いてみよう。

6つ目のケース 正解はジップロックが原因だった

お客さん「染色や打刻の際に濡らしはしますけど、乾かしてからホックをつけています。
あ、でも製品になったら即座にジップロックの袋に1つ1つ入れて保存していました」

ん?どうもそれっぽいなぁ
ジップロックだと水分の逃げ道ないし、ホックの内側などにはメッキかかっていない。
実際今回預かった革製品もクラフト染料で染めたあとの酢酸臭が若干している。
染料の酢酸成分が全部飛びきっていない+水分の逃げ道がないために錆びているんじゃないかなぁ

再現実験の驚く結果

ジップロックに入れたケースと入れていないケースで実験して結果を見てみましょう。
NO5ホック メッキニッケルシルバー、アンティークゴールド、 カシメ ニッケルシルバーの3種をジップロックに。

・酢酸の入っているクラフト染料
・アルコール染料であるWA染料
・水だけ

これが如実でした。

酢酸の入ったクラフト染料入りジップロック

これはすごい。
メッキを問わず酢酸入りのクラフト染料をジップロックに入れると酢酸がメッキを溶かすらしくサビサビに。

酢酸の入った染料はお酢のような刺すような匂いがします。
この手の染料は染め後に放置して空気中に酢酸成分を逃してください。

アルコール染料であるWA染料

ジップロックから出すと微かにアルコール臭。全く錆びておらず

水だけ

若干アンティークゴールドのバネホックの裏側部分が錆びているかな。

金具屋さん、なんでジップロックに水を入れただけのホックは錆びてないの?

「いつかは錆びるだろうけど、水分だけなら結構もつよ。
だってビニール傘をとめるベルトってホック使っているやん。
あれだって早々錆びないだろ?
でも安物の傘は1年くらいで錆びているだろ、ホック部分。
メッキをかけていたらいつかは錆びる。でも水分だけなら結構耐えてくれるよ」

!!なるほどなぁ!でもアンティークゴールドはちょと錆びているよ?

「アンティークゴールドはニッケルシルバーメッキに比べると水分にはちょっと弱いからね。そのせいだと思うよ」

「海外生産の安い金具ってメッキが安いケースが多いね。
基準値が低いから別に違反ではない。でも安い、ってのはどこかで何かが削られているんだよ」

たかがメッキ、されどメッキだねぇ。

どんな金具もいつかは錆びる

メッキをかけようがステンレスだろうが金具はいつかは必ず錆びます。

今回のblogを読んだらわかりますように錆びた原因はどこにあるのか、考えられるケースをひとつひとつ潰していくしかないです。
私がフェニックスに来て10年以上たちますが、錆びた、というケースは珍しいですね。

まぁ今回も面白い勉強をさせていただきました。
お客さんには経過を説明して「今後ジップロックには入れない。制作後しばらく空気にさらす」などでご理解いただけましたわ

フェニックスは国産金具を中心に置いています

フェニックスは一部の高額な金具で海外製を入れていますが、基本的に国産金具にこだわって販売しております。
某アジア製の金具よりも高いですが、金具の精度、メッキはしっかりとしています。
バネホックなどの場合はバネ味やしっかり閉じる、などの精度も国産のほうが上のように感じます。

・ホック – レザークラフトフェニックス ONLINE SHOP
・カシメ – レザークラフトフェニックス ONLINE SHOP

「へ~、じゃぁ他の店で購入した打ち棒でフェニックスのバネホック留めてみよう」ということをすると失敗することもありますのでお気をつけを

《金具》謎のジャンパードットホックがつけられない>>ホックボタンに関する驚く話: レザークラフト・フェニックス

過去の関連blog:


2 thoughts on “ホックが錆びた!というケースから「こんなことで金具は錆びる」という話

  1. Jem

    私も経験あります。といってもここまで酷くないですが。

    クラフト社のカシメですが、英国ブライドルレザーに使用したら、内装側の部分の表面に緑青が出てきました。

    表には出てなかったので、内装で頭にも革の床面が常時触れているので、湿気っている状態なので錆びてしまうのだと思います。

    それでも水場で使えるような、錆びにくいステンレス系の金具でも扱っていただけるなら嬉しいですが、出ませんかねえ?

    返信
    1. l-phoenix 投稿作成者

      こんにちは、ふぇにっくすです。

      内装部分だけ、ということは水分が残っていたっぽいですね。
      厚みのある革はこの国では水分を保持しやすいです。特にお尻ポケットに入れるタイプの財布の場合は水分が抜けづらいように思えます。

      ステンレスのホックなどは金額があわないと思うので金具屋さんが作ることは早々ない、はずです。
      「そのためのメッキなんだよ」と言われます^^;

      最近は100均の傘などはホック部分を全てプラスチックに変えているのはコストの問題と1年後の錆の問題があるんだろうな、と推測しています。

      返信

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